11日午後2時46分。今年の震災の日は風が強くて、高い波がずっと打ち寄せていた。宮城県石巻市の香月昴飛(かつきるいと)さん(26)は、父を奪った海に向かい、手を合わせた。毎年欠かしたことはない。
小学5年のときに母を亡くし、男手一つで育てられた。父の泰志(やすし)さん(当時48)は、鮮魚の箱詰めの仕事をしていた。昴飛さんはぐれて、学校ではけんかばかり。先生に呼び出されて帰ってきた父に殴られた。高校に入ると、ほとんど口をきかなくなった。それでも、父は毎日のように、得意な魚料理を食卓に並べた。「いいカツオが入った」と、さばいてくれた。
震災のときは高校2年。あの揺れのあと、家にいた父と車で近くの祖母を迎えに行くと、もう避難していた。引き返して、内陸へ向かった。停電で信号は消え、海から200メートルほどの交差点に車が立ち往生していた。それを津波が襲った。浮き上がった車の窓を開け、飛び込んだ。
濁流のなか、流れてきた建材が…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル